stARTer kit ーアートの入り口ー

海外の近現代アートを中心に、芸術・ファッションについて更新します。

【写真家】ソール・ライター Saul Leiter(1923‐2013) 

東京・渋谷のBunkamuraにて開催された、写真家ソール・ライターの回顧展のレポートです。

 

www.bunkamura.co.jp ※写真はいずれも本HPより引用

 

 

 

ソールライターは1923年、アメリカ・ペンシルバニア州ユダヤ教のラビの息子として生まれました。神学の勉強をしていたものの嫌気がさし、親から反対されながら1946年に画家を目指してNYにやってきたライター。

そこで、リチャード・プセット・ダートという画家に出会い、写真を学びます。

ライターは写真家であると同時に常に画家でもあり続けました。絵画の作品はプライベートなものばかりのようですが、絵画の制作・写真の撮影が相互に良い影響を与えていたのでしょう。

 

今回の展覧会は1950年~60年ころの作品が中心なのですが、1960年~80年頃は商業的にも大活躍していました。しかし1981年に突如商業用のスタジオを閉鎖しプライベートな作品がメインとなっていきます。2005年に助成金を利用した展示会を開き、それをきっかけに2006年に写真集を出し、再び脚光を浴びました。

 

 1953年には東京国立近代美術館に展示をしたことがあり、これが初めての日本での出展です。

 

 

 さて、いくつか作品を見ていきましょう。

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ソール・ライター 《映画『Beyond the Fringe』のキャスト(ダドリー・ムーア、ピーター・クック、アラン・ベネット、ジョナサン・ミラー)とモデル、『Esquire』》1962年頃 ゼラチン・シルバー・プリント

 

 

 

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ソール・ライター 《カルメン、『Harper's Bazaar』》 1960年頃 発色現像方式印画

 

ライターの写真は構図のおもしろさがずごい。

この≪カルメン≫では、半分以上余白がありますね。ファッションの写真で、これをやるってなかなか実験的。

 

彼は映り込み、ガラス越し、隙間越しの構図を多く用いています。

メインとなる人物を、誰かの肩越しに撮ったり、ガラスの内側から外を撮影したり、何かの隙間からチラ見えする景色をそのまま撮ったり。

 

ちょっと切ない距離感が感じられます。ライター=写真を見ている人=外側の人。写真にあたたかみがあるのですが、写っている人とは他者である事を認識せざるを得ない距離感。

対象者と「自分」を確実に隔てるガラスの壁があったり。

 

 

 

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ソール・ライター 《足跡》 1950年頃 発色現像方式印画

 

 

注目作品の≪足跡≫も、「あたたかな距離感」を感じます。傘を持った女性の顔は見えないし、自分とは違う方向に向かっている。撮影者や見ている人は、この写真の中では当事者じゃないんですよね。でも何となく、「見守ってる感」がある。

それはなぜか?

それは、街の写真はほとんど彼の自宅付近NYのイーストヴィレッジで撮影されているからではないでしょうか。

 彼は本当にこの街が大好きで、この街で起きる日常の様々事を愛していました。愛しい日々を切り取った作品からにじみ出るあたたかな距離感。

 

 

「神秘的な事は馴染み深い場所で起こると思っている。なにも、世界の裏側まで行く必要はない」―ソール・ライター